私たちが着物リメイクの服作りと、オーダーメイドを始めた理由。
左:一点ものの茶ハオリドレス|右:着物
TSURUTOが提供している「キモノフク」は、着物をほどき、ふだんの生活で身にまとえる日常の衣へと形を変えたもの。
一点ものとして販売する「イッテンの衣」。
ご自宅に眠っているお着物をお預かりし、キモノフクへと生まれ変わらせる「サイカイの衣」。
この2つのサービスがキモノフクの柱です。
幼いころからの関心が「キモノフク」に行き着いた
なぜ、私たちがキモノフクに辿り着いたのか。
その背景には、TSURUTOのブランドプロデューサーである大方知子が、子ども時代から寄せてきた環境問題への関心があります。
「風の谷のナウシカ」や絵本「ちいさいおうち」に影響を受けて育った大方。小学生時代から地球環境問題への興味関心を持ち、大学時代には「ファッションから考えるエコロジー」に関心を抱きます。
大方知子
「エシカルファッション」や「SDGsを満たせるライフスタイル」について、ファッション視点から発信していけたら。今の自分に何かできることを始めたいとの想いから、2008年より古着を仕入れてアクセサリーにリメイクする活動を始めたのです。
取り組みを続けるなかで、リサイクル業者とのつながりも持てるように。何トンもの服が資源ごみとして回収され、積み上がっている様子も目にしました。自分でもアパレル業界の現状を調べるようになり、廃棄問題や労働問題について知ることで課題意識が強まっていきます。
13年前に製作していた古着アップサイクルの小物
1番エコロジーなファッションスタイルは何だろう。
自問自答を続けていた大方は、あるときリサイクル業者から着物のリメイクについて相談を受けます。洋服だけではなく、着物もたくさんリサイクル業者に寄せられていたのでした。それまで、大方にとって着物のイメージは「高価」「きらびやか」「ハレの日にしか身につけない特別なもの」。多くの若い女性が抱くであろう、ふだんの自分とは結び付かない別世界の衣類でした。
しかし、あらためて着物について知る中で、その認識には誤りがあったことがわかります。
着物は、もともと無駄を生まない日本の文化の中で深められてきたものであること。
体型に合わせて柔軟にサイズを調整することができ、古くなったあとには雑巾やオムツとして最後まで使い切ることができるということ。
高価で普段着として着られないと思っていた着物はごく一部のものであり、地域ごとに普段使いされてきた優れた織物があること。
実は、着物はエコロジーなファッションだったのだ。
そんなファッションが、自国の文化にあったのだ。
大方が「着物で何かをしたい」と思った転機でした。
「イッテンの衣」からスタートし、「サイカイの衣」へと広がった
TSURUTOが生まれたのは、2015年のこと。
キモノフクが誕生したのは、アパレルブランドNIGELLAとの出会いがきっかけでした。
「和のスタイルで何かやりたい」
「では、和の雰囲気の服を作るのはどうだろう」
話は盛り上がり、TSURUTOがセレクトした10着の着物を、NIGELLAが洋服にリメイク。その出来栄えを見て、どこか古臭いイメージを抱いていた「着物リメイク」の可能性の大きさを感じ、「イッテンの衣」の取り組みを始めることになったのです。
はじめてのキモノフク:ツルとニゲラ
はじめは「柄が可愛い」といった視点でリメイクする着物を選んでいたところから、徐々に生地の素材感や風合いを重視するスタイルにシフト。長く愛用してもらえるようにとの想いで、ほころびが出にくいもの、破けにくいものを選んでイッテンの衣を作っています。
天然素材ゆえの着心地の良さと、日本各地に存在する独自性のあるユニークな生地の数々。洋服に形を変えることで、普段着として気軽に身につけることができるようになるのも、キモノフクの良さです。長く身にまとっていただけるよう、デザインは流行や年齢にしばられずに着られる、エイジレス・タイムレスなものに。時代を超えて美しいと思っていただける一着を作り続けています。
黄色地に雪輪のハクロドレス
イッテンの衣の活動を始めたところ、お客様から「実は、家に着ていない着物がしまわれていて」といった声が寄せられるように。これが、オーダーメイドのキモノフクサービス「サイカイの衣」を始めたきっかけとなりました。
「買い取り業者にタンスの肥やしとなっている着物の買取を相談したのですが、値段がつかなかった」
「高価なものではないかもしれないけれど、捨てるのは忍びない」
「シミや汚れがついているから、捨てるしかないのかな、と。でも、母が大切にしていた着物だから捨てることもできなくて」
後ろめたい気持ちと共に家の奥にしまいこまれている着物を、キモノフクにリメイクすることにしたのです。
一着の着物が持つ物語は、それぞれに異なります。
買い取り業者の査定では10円、20円の価値しかない*と言われた着物にも、誰かの記憶や思い入れがあるもの。キモノフクとして生まれ変わらせることで、何万倍もの新しい価値を得ることができる。そう、私たちは考えています。
お客さまオーダーの着物とコチノースリーブドレス
シミや汚れ、ほつれやシワがあってもいいのです。 パターンによっては避けてお作りすることができますし、普段着として身につけるキモノフクなら、シミや汚れすら味わいになることも。
また、留袖や色留袖といった高価な着物によるキモノフクには、また別の良さがあります。パンツやシャツ、ドレスなど、大切に着続けたい一着に生まれ変わらせられるのです。
ただでさえ、同じものが少ない着物。家族が愛用していた着物であれば、それはもうオンリーワンの存在です。その着物が、家族にとって厄介なものとして保管され続けているのは、残念なことだと思います。
お客さまの振り袖から、ワンピースへ
「亡くなった母から嫁入り道具で持たされた着物が、何十年もタンスと一緒に心に引っかかっていた。洋服として着られるようになって、長年の心のつかえがとれました」
お客さまからいただくこうした言葉が、私たちの活動を支えています。
日本で生まれた着物は、日本の気候風土に合った素材で作られ、圧倒的な着心地の良さを誇ります。お金では表せない、衣に込められた、この国の美学を身にまとう選択を。つい自然と手に取ってしまう、そんなキモノフクの良さをぜひ実感していただきたいです。
想いを同じくする方と、大きく空に羽ばたきたい
TSURUTOでは、売り上げの一部をACE(エース)に寄付する活動を行っています。ACEは、インドを中心としたコットン農家の子どもたちを支援する団体です。健全に作られているコットンが広く使われるようになってほしい。製造過程で環境や人が傷つけられることのないようにとの想いは、キモノフクへの想いと同じものです。
つるとのチャリティ活動:つると地球
そうした面から見ても、着物には良さがあります。
1着のキモノフクを作る際に必要な水の量は、Tシャツの製造と比べて約98%**も削減可能。
大量生産のできない非効率なモノづくりではありますが、環境負荷の面で見ると非常に効率的なものなのです。
私たちも理解できていなかった、こうした自国の文化の良さ。
キモノフクの活動を通して気づけたことは多く、今も学びの道の途中です。
キモノフクを通して、ひとりでも多くの方に日本文化の良さを知ってほしい。
「着物って、着づらい」「裕福な人の趣味でしょう?」といった、着物への先入観を壊していきたい。
そう願いながら、これからも活動を続けていきます。
左:宇波滉基|右:大方知子|photo:Hidetaka Nobu
立ち上げ以来、ブランドプロデューサーの大方とクリエイティブディレクターの宇波の2名で活動してきたTSURUTO。キモノフクをはじめ、わたしたちの足元にある文化を大切にし、美しい循環を生み出していきたいと考えています。自分たちだけではなく、国内外とのアーティストとのコラボレーションにも関心を抱いています。多角的な視点から見つめることで、日本文化の新たな解釈を生み出せたら。そんな想いを抱いているのです。
鶴が大空に羽ばたく姿をブランド名にした「TSURUTO(鶴渡)」。ブランド立ち上げから6年目を迎え、クリエイティブな世界で生きる人たちと関わっていく段階に進みたいと考えています。TSURUTOと一緒に活動したい。そんな方と共に活動を盛り上げていける日を楽しみにしています。
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